最近の東野圭吾さんの著作には、少し不満でした。作品全体が小粒になっているというか。
しかし、この「容疑者Xの献身」は、面白く昨日の晩、一気に読みました。
理系人間らしく東野圭吾さんの作品は独自のロジックが、展開されています。
この作品でも、ロジックを操る数学者と物理学者が登場します。
一人は、自分が好意を寄せる女性が犯した殺人をかばおうとする側の数学者として、もう一人は、警察側の協力者として。
この二人のお互いの才能を認めながらの対決も面白いのですが、純粋な学問が好きな同士の学問的対決も面白いです。
容疑者Xの献身 (文春文庫) | ||||
<ここから批評>
僕は、あえてこの二人が、本書の中で紹介されてるような“天才”という言葉は用いない。なぜなら、彼らを天才とは認めないからだ。 なぜなら、それは単にロジックの変換でしかない。 天才とは、難しい難問を解き明かすのではなく、勿論そういう人の中にも天才はいるだろう、それよりも大事なことは、その世界の常識をくつがえすような、そして、その結果、その世界を劇的に不可逆的に(歴史を逆戻りさせないような)変化させ、その世界のパラダイムを転回させるような人物の事をいうのではなかろうか? 例えば、日本の歴史でいえば織田信長であり、思想の世界ではフランス構造主義、引き続いて起こったポスト構造主義にかかわった人達であり、日本のロックの世界では、初めて日本語の歌詞をロックにのせて歌った“はっぴいえんど”の連中、映画の世界では、仏ヌーベルバーグにかかった連中のことであろう。
<ここから本書の紹介>
物語は、数学教師をしながら最先端の数学的難問の研究をしている石神の隣に住む花岡靖子の元に、どうしようもない元夫富樫慎二が金を無心しに来たところから始まります。 石神は、靖子にひそかに好意を抱いており、彼女の勤める弁当屋べんてん亭に毎朝、昼食のために決まっておまかせ弁当を買いに通っています。 金の無心に来た富樫慎二を成り行き上、靖子とその娘の美里ともに絞殺してしまいます。 石神は、数学者らしく冷静に状況を判断し、明晰な頭脳を使って細心の注意を払って靖子に警察の対応等を指示します。 殺人が明るみに出ると警察官草薙とその友人の物理学者湯川学が登場し、それぞれ独自に、この殺人事件を推理していきます。
<ここから感想>
東野圭吾さんの作品は、単なる辻褄合わせに終わるようなミステリーをお書きにならないのですが、この作品もラスト近くで二転三転します。 本書のタイトル「容疑者Xの献身」の“容疑者X”は数学者石神の事を指し、“献身”とは、本書のラストで明らかになる好意を寄せている靖子への宗教者とも思わせる犠牲的態度である。 僕は、石神の取った行動は、ロシアの名匠タルコフスキーの哲学的思索を伴う映画「サクリファイス(犠牲)」を思わせるような人生を掛けた行為であると思う。
<ここから再び批評>
この行動をとるきっかけとしては薄すぎると指摘しておられるブログの記事が散見されましたが (これは、石神に数学を取り組む態度を、もっと崇高な行為であると改めさせるきっかけでもある) 、僕はそうは思わない。 であるがこそ、本書は非常に惜しいのである。 そうする事によって、本記事のタイトルでもある“こんな純愛あったのか”と読者に思わせることができるのではなかろうか?この言葉は軽いですが。
<ここから再び感想>
本書にも、石神が払う自己犠牲は、ある程度、説得力を持って受け止めている。 東野圭吾さんの他の作品にも見られるのであるが、本書もラスト近く一気に犯行にいたる動機等や真相の説明があるのではあるのだが、これは東野圭吾さんのひとつの特徴ではあるが、本書は二部構成とまでいかずとも、石神がラストにみせる行為にいたるまでの説明がもっと欲しいところだ。 そうすることによって、本書は文学的高みを得て、本年度ベスト1であるばかりか、エンターテイメント小説に不可逆的に変化を与え、エンターテイメントの世界に革命をもたらし、東野圭吾さんの天才性が現れるのではなかろうか? 確かに、ラストの展開までの伏線をちりばめた結果、意外な展開を見せるという緻密なストーリー構成には脱帽しますが。 いずれにせよ、ここ最近の東野圭吾さんの作品には少し幻滅してたけど、この作品は東野圭吾さん自身が“5年に一度書けるかどうかの作品”というだけのことはありました。 評価:★★★★☆ (追記) 東野圭吾さんの記事はコチラ東野圭吾なら「白夜行」から | KI-ミステリー(Mystery) 直木賞受賞の「容疑者Xの献身」の人気シリーズ第1弾東野圭吾「探偵ガリレオ」 | KI-ミステリー(Mystery)
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『容疑者Xの献身』
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東野圭吾【容疑者Xの献身】
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「容疑者Xの献身」東野圭吾著、読んでみました。
「容疑者Xの献身」東野圭吾著、読んでみました。「東野圭吾」著、10作目。図書館で随分前に予約したのがようやく順番になりました。「直木賞受賞作」だったんですね。本の帯は的外れで売る為に煽情的なのが多いんだけど「運命の数式。命がけの純愛
容疑者Xの献身
東野作品は20作くらい読みましたけど、自分にはこれが最高傑作です。若干突っ込み所はありつつも見事な叙述トリック、そして石神の純粋すぎる愛と湯川の優しさを描いたストーリー、どちらも大満足でした。結末は賛否両論ですけど、自分はこれでよかったと思います。