[ 短評 ] 中上健次著『十九歳の地図・蛇淫 他』〜意外に繊細な作家であることがわかった。〜


 

その昔、自分でどういう理由であったか、忘れてしまったが、ヤフオクで小学館文庫の中上健次の全集である選集を全巻購入した。

中上健次といえば、当時、大江健三郎、村上春樹に次ぐ日本文学を代表するような作家であったが、自分自身、彼の何処に、そこまで興味を抱いたのか、忘れてしまった。

短編集の一作品だけを読んだりしていたが、この度、この『十九歳の地図・蛇淫 他』を読み終えたので、全作品についてではないが、その感想を添えておく。

十九歳の地図・蛇淫 他―中上健次選集〈11〉 (小学館文庫)

内容





予備校生のノートに記された地図と、そこに書き込まれていく×印──。
都会に生きる若者の孤独と焦燥、支配への欲望と暴力の衝動を、若々しい筆致で描き出し、作家・中上健次の存在を強烈に印象づけた初期代表作「十九歳の地図」。

南紀の幽暗な風土を背景に、無軌道で荒々しい男の生を描き“親殺し”のテーマを扱った衝撃の珠玉作「蛇淫」。

ともに映画化された表題二作の他、文壇デビューを飾った処女作「一番はじめの出来事」をはじめ、「鳩どもの家」「浄徳寺ツアー」「水の女」の四篇を収録。

作家の軌跡を辿る厳選の初期傑作集。
(解説 重松清)

<短評>

『一番はじめの出来事』

想像力豊かな僕・康二は、仲間らと山中に〈秘密〉を作り始める。
訪ねて来た兄にも、その作っている〈秘密〉が何であるか、明かさない。

今の子供達には想像もできないだろうが、まだ空き地が沢山あった僕の子供時分にも、大人に秘密にするような事をしていた。





康二らが作る〈秘密〉とは何だろうか?
やはり、僕達と同じような少し危険な匂いがする秘密基地のような気がする。

かつては、そんな子供達だけの世界が存在した。

この『一番はじめの出来事』には、やたら"子供なんだ。"というフレーズが現れる。
中上健次作品らしく、朝鮮人、ヒロポン中毒、酒呑みに彩られ、大人になる事の不安、弱さ、子供同士の強がりが巧く描写されていた。

『一九歳の地図』

土着的な、人間関係の濃い小説を書いていると思っていた中上健次であったが、予想外に、インテリが主人公で、内省的で、きめ細かな描写である。

面白かった。

『鳩どもの家』

関西弁の文章のリズムが良い。
文章から人情の濃さを感じさせる。

『浄徳寺ツアー』





短いセンテンスで人の動作を描写し、それがリズムを生む場面があるが、物語自体は、だらだら脈略なく続き、何を描こうとしているのか、さっぱり解らなかった。

まとめ

全般的に、昭和の風景を背景に、きめ細やかな人情の機微が、いかにも中上健次らしい生活人を登場させ、心地よい関西弁を乗せて物語が描かれている。

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