この本は、2012年の4月に出版されたことを、まず念頭に置いて下さい。
この本を読んだことにより、あまり知られていないかも知れないが、日本独自と言われる企業文化を海外の研究者らが、当時、全盛を極めていた日本企業の強みを研究していたことを知れました。
今、日本が誇る世界で活躍する企業は、トヨタとキャノン、ニコンなどの一眼レフ業界くらいになってしまいました。
巷では、ブラック企業などの噂も聞こえ、快適であった職場もハラスメントなど環境が劣悪化しています。
また、ITも十分に使いこなせているとは思えません。
FAXがいまだにこれだけ普及している国は、先進国で日本くらいだ。
IT技術は、どんどん急激に進化するが、邪悪な使い方しかできないのではなかろうか。
そういうテクノロジーも大切だが、最も重要なのは、この本に書かれているようなマインドセット、認知であると痛感する。
おもてなし、日本すごい!で沸き立っていますが、日本の企業は、このままでは、どんどん世界から置いて行かれるのではないか?
この記事では、本の感想よりも、内容の紹介に重きを置いています。
なぜ、日本企業は「グローバル化」でつまずくのか―世界の先進企業に学ぶリーダー育成法
内容(「BOOK」データベースより)
国内から世界を見ているだけでは気づかない。この大きく変わった現実といかに向き合えばよいのか。ネスレ、GE、ヴァーレ、マークス、ヴェオリアなどの事例をまじえ、スイスの世界的ビジネススクール、IMD学長が語る。
目次
第1章 新しい世界、立ちすくむ日本
第2章 なぜ、日本企業は「グローバル化」でつまずくのか
第3章 先進企業は、どのように人材に投資しているのか
第4章 地球規模で活躍するリーダーに求められる能力
第5章 グローバル人材育成のために日本企業ができること
著者紹介
ドミニク・テュルパン
スイスのビジネススクール、IMDの教授として過去25年に渡りマーケティングや経営戦略に関する世界各国の企業に対して教育と調査研究に従事。
2010年7月より、IMD学長。
毎月、世界各国を訪問している。
1981年、20代の前半、フランスから日本企業を学びに来日。
高津尚志
IMD日本代表。
この『なぜ、日本企業は「グローバル化」でつまずくのか』という本は、著者・ドミニク・テュルパンと高津尚志の合本というような形をとっており、一見したところ、本のこの部分は、どちらが担当したのか、わからないようになっています。
いわば、映画における共同脚本のような形となっています。
著者らが指摘する日本企業の不得意、苦手な点
- 海外のM&A
- ダイバーシティ(多様性)のマネジメント
- 女性を含め、マイノリティーの採用や活用に消極的である。
内にこもり、中国、インド、ブラジルといった新しいマーケットに入ることに失敗した企業は、少なくない。
まえがきより
中国は急速に学んでおり、今後10年で世界経済において確たる地位を占めるであろうことは言うまでもありません。
人口動態を考えれば日本にとっていまという時は、おそらく世界に打って出る最後のチャンスとなるでしょう。
経営モデルの主流は、時代に応じて変化し、1960年代は米国式経営、70年代はドイツ、スウェーデン式の社会契約型経営、80年代は良識に基づいた日本式経営を学ぶことが早道のように考えられていました。
この本はいくつかのヒントを提供できると思います。
第1章 新しい世界、立ちすくむ日本
本章で書かれているが、「グローバル人材って、TOEFL何点以上ですかね。」と著者は、度々、人材育成担当者に聞かれたそうです。
英語のGlobalizationは、地球を意味するGlobeという言葉の派生語。
グローバルという言葉を使わずに、「地球的経営」と言ってみればいかがでしょう。
Globalizationの本質は、「地球規模で発想し、行動する。」ということであるから。
内向きな日本企業。
日本ブランドの商品は、日本市場において5割から8割という圧倒的なシェアを誇っている。
消費者の一般生活において外国製品が日本製品を駆逐しているということがなかなか見えてこない。
海外のグローバル戦略において、日本市場とは、成功するのが難しく、かつ、縮小する市場と見られている。
大半の海外企業がわざわざ成長余力の小さい日本市場に挑戦するよりも、アジアの他国や他地域で勝負したほうがチャンスも大きいと考えているのです。
世界競争ランキングの上位の国は、米国を除けば、大半は、香港、シンガポール、スウェーデン、スイスなど小さな国。
国内市場が小さいこともあり、多くの企業が、国外へ成長を求めて広がっていった。
スイスにはグローバル企業の本社が数多く存在する。
これらの小国は、国家戦略として税制優遇などの規制緩和・改革を行ってきた。
経営トップの半分は、外国人。
2012年時点、旧G7が世界のGDPに占める割合は約40%となった一方で、G20全体で85%を占め、世界の人口の2/3を占める。
G20のスタート
まさに、21世紀を牽引する「地球的(Global)」へのパラダイムシフトを象徴する出来事。
目立つのは、「政府の効率性」の評価の低さです。
各国のビジネスリーダーの意識調査で算出された順位(59カ国全体)
- 移民に関する法律の適切さ 57位
- 財政運営の健全さ 56位
- 政策の順応性 55位
- 政治の安定性 55位
起業家精神が圧倒的に足らず、国際経験も不十分。
残念ながら、守りは強固だが、攻める力が足りない。
第2章 なぜ、日本企業は「グローバル化」でつまずくのか
ミクロに、企業単位の活動を例にとりながら、なぜ日本企業がグローバル化につまずいたのかについて著者らの観察が記されている。
つまずきの要因① 「高品質」にこだわり続けた
エレクトロニクス産業における日本企業の地盤沈下。
日本企業の強みと弱みを徹底的に研究した韓国企業。
日本企業が劣るデザインやグローバルなマーケティングを強化。
世界市場で、テレビに一定以上の質を求めてプレミアムを払う消費者は稀である。
つまずきの要因② 生態系の構築が肝心なのにモノしか見てこなかった
AppleのiPodの例
これは、「モノ対モノ」の戦いではなく、「モノ対システム」あるいは「モノ対生態系」の戦いであった。
正確さを誇るセイコー時計に対する90年代以降のスイスの時計メーカーの巻き返しの例。
スイス勢は、時計を時を告げる道具ではなく、装飾品、自己表現の手段として差異化し、美しさとその背景にある物語を訴求していった。
つまずきの要因③ 地球規模の長期戦略が曖昧で、取り組みが遅れた
IMD、レーマン教授の言葉。
「これからのビジネスを考える上で大切なのは、人口統計である。」
人口統計は、市場を開拓する手がかりとして最も確実なデータである。
味の素、コマツの例
調味料
国民一人当たりのGDPがある閾値を超えると急速に普及するという特徴がある。
生活の豊かさが、好まれる味のバリエーションの増加に繋がる。
韓国のサムスンの長期戦略
日本市場への進出を後回しにし、日本企業が参入できない他のマーケットを開拓して徹底的に勝つというもの。
つまずきの要因④ 生産現場以外のマネジメントがうまくできなかった。
日本企業の輸出先:米国と西欧が中心。
新興国での日本企業の低いシェアは、商品開発、マーケティングといった分野での立ち遅れも原因のひとつ。
新興国では、販売チャネルの開拓や構築から始めなければならない。
製造業の生産現場と違って、現地のホワイトカラーを高度に活用し、彼らの持つ現地市場に関する知恵や情報を引き出し形にしていくマネジメントが必要である。
日本企業の新興国に対する偏った見方も見過ごせない課題である。
日本企業がグローバル化につまずく根本には、異文化を理解する力のなさが根深く横たわっていることを再認識する必要がある。
日本企業は、現地の進出先を日本化することで生産拠点としての成功を得た。
平等主義
工場長と工員が、同じ社員食堂で食事をする。
日本の製造業は、生産現場、ブルーカラーのマネジメントにおいて、成功を収めた。
日本企業の中枢にいるのは40代以上の日本男性である。
日本で成功を収め、通用していたやり方が、異なった文化や環境の中で通用するとは限らない。
世界において、現地において、最も優れた方法と手段を対話を通して生み出していかなければならない。
これまでの日本式人材育成
新卒の男性を大量に一括採用し会社のカラーに染めていく方式。
入社したての新人社員には、お金と時間を掛けて教育するが、その後の幹部社員への教育には、お金を掛けない。
そこには、それら幹部社員は、現場を通して自分で学ぶものという暗黙の期待がある。
世界の先進企業では、経営側は、率先してエグゼクティブの教育に投資している。
イノベーション、グローバル化
多様なアイデアや価値観を捉え、促進し、まとめていくというマネジメントが問われる。
第3章 先進企業は、どのように人材に投資しているのか
人事異動がグローバルに対応するネスレ
ネスレの雇用形態
ほぼ終身雇用。
出世コースは、一様ではなく、グローバルに頻繁に配置転換するのが特徴。
ネスレのスイス本社の常務会に参加する上級幹部14人の国籍
アメリカ、イタリア、フランス、インドなど9カ国
ネスレの特筆すべき教育支援
スイス本社近くにある国際研修センター・リブレイン(Rive-Reine)の存在。
全ての研修プログラムは、ネスレの業界、業種に特化した内容となっている。
ネスレと匹敵する人材育成企業、アメリカ・GE
世界に知られる企業内大学・クロトンビル
世界中のGEグループから幹部候補生が送り込まれる研修センター。
研修内容も、参加者が社内コンサルタントとなり、GEの業務改善に取り組む実践的な内容となっている。
大きなテーマは「地球規模の起業家精神」。
成長著しいインドを支える様々な組織の起業家らと直に接したりする。
米国中心の経済システムから新しいルールの下で新しいゲームが始まっているという変化を感じ取り、的確な戦略を打ち出そうとしているGE。
新興国企業ほど世界級人材を求めている。
グローバル展開に意欲的なブラジル企業の経営者たち。
日本企業の挑戦 ー JT
M&Aにより、売上高の約半分を海外たばこ事業が上げている。
日本と中国以外の地域は、スイスのジュネーブに拠点を置く子会社であるJTI(日本たばこインターナショナル)で運営している。
日本本社のトップよりもJTI本社のトップの方が高給を取っている。
第4章 地球規模で活躍するリーダーに求められる能力
グローバルなマインドセット
海外進出を国内事業の延長と捉えていれば、グローバル展開は、成功しない。
地球規模で物事を考えるリーダーの必要性。
役員会改革の必要性。
外国人を役員に加え、役員会の視野、視界を広める努力が必要である。
意識的に異文化に触れ、新しい環境と出会う機会を増やさなければならない。
グローバル展開で求められるマネジメント能力
第1段階 異国・異地域での機能運営
言葉や文化、社会システムの違いを超えるファンクショナル・マネジメント。
第2段階 異国・異地域での事業経営
言葉や文化、社会システムの違いを超えるゼネラル・マネジメント。
第3段階 地球規模での全社経営
究極のグローバル・マネジメント。
グローバル・マインドセット
マインドセットとは、行動の前提となる何らかのものの見方、考え方、思考のこと。
一度、組織にグローバル・マインドセットが埋め込まれると、グローバル・マインドセットを備えた個人が育ちやすく、活躍しやすくなる。
- 知覚/認識のマネジメント=認知管理力
- 関係のマネジメント=関係構築力
- 自己のマネジメント=自己管理力
1.認知管理力
ほかの文化に関心を示し、他の国に関心を示すことが認知管理力の基本。
認知管理力を支える5つの要素
1.判断を保留する力
性急な判断を差し控える。
2.問いを立てる力
3.曖昧さへの寛容さ
何が起こっているか、わからない状況においても動じない能力がある。
4.コスモポリタン(地球市民)的感性
5.関心事への柔軟さ
慣れないことでも試みようとする意思がある。
新興国としての中国の台頭という状況に対して、これまでの意識を改めずに・・・・中国に行くのか。
先入観を取り払って新たに台頭する世界第2位の市場をじっくり観察して深くニーズをつかむのか。
まさに、認知管理力の差が出るところです。
2.関係構築力
関係のマネジメントとは、文化の垣根を超えて、他者をいかにとらえ、他者とどのように協力して働けるのかということです。
コミュニケーションをしている相手に対する共感性(エンパシー)や思いやり(シンパシー)を養うことが大切です。
しかしこれを一番困難に感じるのは、日本人男性正社員です。
彼らは自らが日本企業において心地よいメインストリームにいるため、自分たち以外の周囲の人のことを一段低く見がちです。
女性、若手、派遣社員、外国人、社外パートナーといった人々への共感性(エンパシー)と思いやり(シンパシー)の欠如。
3.自己管理力
・楽観主義
・自己確信
・自己同一性
異なる国や地域の人の中でも状況に左右されず、自らの価値観と信念を保つことができる。
・感情的な復元力
・非ストレス傾向
・ストレス管理
海外で世界をまたにかけて働くことができる人の対極にあるのが、日本で日本語しか話さず、海外にも行きたくない、国内以外のこと以外はなにも理解したくないというような人。
逆に、日本では、晴れてMBAを取得して帰国した彼らに見合う仕事が与えられないというケースも存在する。
残念ながら多くの日本企業、日本人は、与えられた枠の中で問いを立て続ける事に終始しがちで、枠組みの外に向けた問う力が弱まっています。
グローバルな世界で生きてくるのは、正しいことを言う力ではなくて、わからないことをわからないと言う力、人とは違う角度、時間や空間からものを見る力です。
第5章 グローバル人材育成のために日本企業ができること
多くの日本企業の課題は、グローバルに活躍できる人材をどのように育て、活用すべきかです。
提案① 研修以前にもっと人事異動を効果的に使え
提案➁ 幹部教育を手厚くせよ
日本の大企業では、社内人口ピラミッドにおいて、バブル前後に入社した40代の人数がとても多くなっている。
時代の激しい変化に対応して行くには、いささか歳を取り過ぎている彼らが社内で多数派であるため、会社を変えていく上での障害になっている。
年功序列制の日本企業において、企業戦略の構想を練ったり、意思決定を行う彼らと経営幹部こそがグローバル化教育が必要とされる。
提案③ 人材育成は日本人も外国人も対象にせよ
提案④ 英語とともにコミュニケーションの型を学べ
感想
非常にわかりやすい文章で書かれており、2012年に出版された本とはいえ、いまだに十分に通用する提言に満ち溢れているのではなかろうか。
2020年現在、日本企業は、益々内向きになってきているような気がする。
このままでは、世界に通用する、世界標準を自ら創り出すような企業が現れるのであろうかと暗澹たる思いに駆られる。
この本を読んで、世界を股にかけ、活躍する企業には、それなりの裏打ちと戦略がきっとり打ち出されているのだということを学べました。
同時に、世界の中核で働く人は、相応の努力と教育がなされているのだなあと感じました。