[ レビュー ] J.K. ガルブレイス 著『満足の文化』〜満足せる選挙多数派が政策を決めて行く。〜


 

何か経済学の本が読みたくなり、何らかの名著案内で紹介されていたJ.K. ガルブレイスの「満足の文化」を読んでみた。

満足の文化 (ちくま学芸文庫)ーAmazon

なぜ選挙で何も変わらないのか。それは政財官学が作り出した経済成長の物語に、多くの人が洗脳されているからだ。先進資本主義社会の病巣に迫る。

内容(「BOOK」データベースより)





ゆたかな社会を実現した先進資本主義社会では、政財官学が一体となり、ゆたかな人びとの満足度を高めるための政治が行われる。
選挙で勝つために、そして最終的には超富裕層をさらに富ませるために。
結果、彼らを潤す規制緩和や金融の自由化が急務となり、増税につながる福祉の充実や財政再建は放置される。

経済学はトリクルダウン仮説、マネタリズム、サプライサイドエコノミクスなどで政策を正当化し、その恩恵が国全体にも及ぶかのように人びとを洗脳する。
かくして度重なる選挙でも低所得層の叫びはかき消され、経済格差が固定化されていく。

異端の経済学者ガルブレイスによる現代の資本論。

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)

ガルブレイス,J.K.

1908年カナダ生まれ。
経済学者。

カリフォルニア大学バークレー校を卒業後、「フォーチュン」誌編集委員などを経てハーバード大学教授、アメリカ経済学会会長、インド大使などを務める。

2006年逝去

中村/達也

1941年秋田市生まれ。
一橋大学大学院経済学研究科博士課程修了。
千葉大学教授、中央大学教授を経て、中央大学名誉教授





(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

レビュー

経済的に豊かで今の生活に満足している層をガルブレイスは、『満足せる人々』と呼び、その満足せる層が、歴史的に1980年代頃から多数派となり、アメリカで支配的な政治的影響力を持っているという。

ガルブレイスは、この新しい事態をまるで人類学者のように、善悪の価値判断を挟まずに、観察し、分析するという。

彼ら(満足せる層)が最も嫌うのは、彼らが納めた税金が貧困層に福祉として使われる事である。
実際には、これら下層階級が、彼らの嫌がる辛い仕事を構造的に引き受け、彼らの生活の基盤を支えているにも関わらずである。

また、経済への国家介入に抵抗するという。
また、彼らは、増税も嫌がる。
彼らは、金融政策のみ支持する。

しかしながら、データ的裏付けやそれを証明する具体的な出来事を紹介する訳でもなく、それは、一つの仮説に過ぎない。





しかし、その仮説により、納得してしまう事象もあり、読みやすい事も加味し、経済学者が『満足せる選挙多数派』を軸に書いた軽いエッセイとして読むと面白い。

このガルブレイスの『満足せる選挙多数派』の理論を日本に応用すると、技能実習生の酷い環境や入管施設の問題など、国会に取り上げられたり、報道されているにも関わらず、昔なら、『人権問題だ。』と、それなりに声を上げる人たちがいたと思うが、それが現在大きな問題にならないのは、彼らに選挙権がなく、日本の『満足せる選挙多数派』が、無関心だからとも言えるであろう。

 

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