北朝鮮からテポドン、打ち込まれるわ。今度は、ソビエトに密漁とはいえ全く無抵抗な一般の漁船が射撃され、船員が殺されるわ。我々、日本が国として相手が攻撃してこなければ、こちらは攻撃しないという専守防衛を頑なに貫いていることをいいことに、随分、勝手なことをしてくれるじゃないですか。
とうとう北朝鮮は、核実験しちゃうし。
これで、日本の状況がナショナリズムに傾かなければ、国民としてどうかしている思うのですが、現実は、日本国民は、靖国問題で中国や韓国からの抗議に対して、大いに怒り、ナショナリズムに走りますが、ロシアの問題に関しては、今ではテレビも取り上げない。
それが、“この国の状況”である。
日本人は、いつもどこかずれている。
大事な安全保障の問題じゃないの?
靖国問題のような、ある意味、感情的に対応できる問題に関しては、大いに取り上げられ、国民も大いに意見を述べるが、安全保障などある意味、専門性があり、論理性などが問われる問題は、一部の人しか語らず、すべて後回しだ。
それが、“この国の状況”である。
この「Op.ローズダスト」は、そんな”この国の状況”に裏切られ、一時、命を奪われるのではないかという思いをした自衛隊の非公式なエリート組織が、“この国の状況”に復讐する物語である。
Op.ローズダスト(上)
福井 晴敏
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<ストーリー>
物語は、いきなり東京の大都心でセムテックス爆薬によるテロ事件が勃発するところから始まる。
偶然、近くにいて事件を知った“ハムの脂身”並河次郎警部補は、現場に急行する。
なぜか、そこには防衛庁の職員の姿も。
といっても、並河次郎は、一応、刑事だが公安部四課所属で、普段は極左や右翼が発行する機関紙やビラ、構成員の個人データなど資料管理を行っている、いわば“ハムの脂身”と揶揄される閑職の刑事である。
しかしながら、無能だから閑職に回されたのではない。
以前、“作業玉”と呼ばれる公安のスパイとの過去が尾を引きずっているためだ。
それでも、“マル六レベル”-最上級クラスの機密情報を流してくれる“作業玉”が、情報提供相手を並河次郎を指定して、頑として他の公安職員と接触しないため、公安の幹部も並河次郎をむげにできない。
テロの標的は、ネット財閥のアクトグループの常務取締役水月聡一郎ただ一人だ。
テロリストたちは巧妙に計算し、セムテックスという爆薬を使いながら、水月聡一郎だけに被害を及ぶようにしていた。
アクトグループは、過去に防衛庁も開発に噛んでいたTPexを導入しようとしたが、偶然、撮影されたキノコ雲が写るTPex爆発実験映像により採用されなかった経緯がある。
事件は、発生直後からマルS(神泉教の過激信者)によるテロではないかという噂が流れていた。
そんな並河次郎が警察庁のそうそうたる幹部の会議に呼び出され、犯行現場で一悶着あった防衛庁情報本部の丹原朋希三等陸曹と行動を共にすることとなった。
態の良いお目付け役だ。
感情を表に現さない“人形の目”をした丹原朋希と人情の世界に生きる並河次郎は、全く肌が合わない。
そんな丹原朋希の単独行動に並河次郎警部補は、振り回されてばかりだ。
北朝鮮の工作員によるTPex強奪説を唱えるものも、ごく一部に存在した・・・。
しかしながら、現場を取り仕切る警察官らには、なんら情報が降りてこない。
そうこうするうちに、アクトグループの大和化成の常務取締役がまた一人、警察からの監視の目からそれ失踪した・・・
彼らの共通するのは、元防衛官僚であり、同じ年に入庁し、揃って退庁し、アクトグループに天下っている。
大和化成は、以前、TPexの開発に直接関わっていた企業だ。
TPexとは、テルミット焼夷薬に、二種類の特殊溶液を混ぜた三液混合爆薬。
その爆発力は、核爆弾並みとも言われている・・・
どうやら丹原朋希と“ローズダスト”と名乗るテロリストたちは、愛憎混じった因縁の過去が・・・
“ローズダスト”らが次々、犯すテロ行為によって、“この国の状況”が次々、面白いように、変わっていく・・・、そして、日本を巡る情勢は抜き差しならないものになっていく・・・
“ローズダスト”のテロリストの背後には、政界、財界、防衛庁の影がチラつくのだが・・・
事態は、並河次郎警部補の娘、恵理も巻き込んで進行していく・・・
Op.ローズダスト(下)
福井 晴敏
<感想>
本書「Op.ローズダスト」は、平壌宣言、9.11以降の世界情勢を踏まえて、アメリカにもきっちり物を言うべきだという一部の勢力の存在もきっちり描いて、北の核実験後のめまぐるしく変わる国際情勢の現在においてもというか、そういう状況こそだからか面白い!
ものすごい構想力だ!
■本書「Op.ローズダスト」の評価は難しい
福井晴敏さんの作品は、前作「終戦のローレライ」でもそうだったのですが、主人公らの動機というか、物語の半ばで本当の目的が明確にされると、物語が俄然、興味を失い、「終戦のローレライ」の場合ですと、それ以降は、何か付けたしというような面がなきにしもあらずでした。
本書「Op.ローズダスト」においても、テロリストたちの真の目的が明らかにされ、“ローズダスト”らのファイナル・ターゲット、本当のオペレーション・ローズダストが開始されるのであるが、この開始当初、主人公らがしばらく登場しない。
また、このオペレーション・ローズダストの方法が非常に地味で中だるみを感じさせる。
この中だるみさえなければ、5年いや10年に一度の傑作じゃないだろうかと思う。
僕は、何もオペレーション・ローズダストの様子を最初から最後まで描写する必要はなかったのではないかと思います。
むしろ、途中からの描写の方が物語が締まって、良かったのではないかと思います。
ラスト、オペレーション・ローズダストの敢行の様子がつづられていくのであるが、あまりにも理念的な目的のため、少し閉口しながら読んでいたのですが、ラスト、首謀者・入江一功の口からオペレーション・ローズダストの真の目的が明らかにされ、東京上空に“ローズダスト”(テロリスト達のことではない)が舞い降りた後の描写で、僕は、しばらく文字を追えないほど感動に打ち震えた。
こんな経験、長い読書生活の中で初めてのことだ。
■女ガンナー留美の描写が素晴らしい
オペレーション・ローズダストにおいて、テロリストの一人留美が鬼気、迫るような活躍をみせるのだが、テロの目的への自己の思いやテロリストの首謀者・入江一功への想いなどの心理描写を見せながらの彼女のガンナー振りは、非常に美しく、際立つ。
■福井晴敏さんの恋愛描写
丹原朋希とテロリストの首謀者・入江一功とそのヒロイン堀部三佳への恋愛描写また、丹原朋希の並河次郎警部補の娘、恵理への恋愛は、あまりにもストイックというかうぶというか、前作「終戦のローレライ」でもそうだったのであるが、軍人だとはいえ、いまどきこんな純な若者がいるというようなものでした。
それに対比しての並河次郎警部補と“マル六の作業玉”との“男”と“女”の関係は、シャレていて大人な雰囲気をかもし出していた。
「Op.ローズダスト」における一つの収穫ではなかろうか。
■バタ臭い並河次郎警部補キャラクター造形は、「Op.ローズダスト」の収穫である
前作「終戦のローレライ」もそうだったのですが、福井晴敏さんの作品に登場する登場人物たちは、どこかみな“理念”や“思想”のために行動するのであるが、この並河次郎警部補は違う。
むしろ“情”に基づいて行動するバタ臭い中年男である。
“マル六の作業玉”(女)が、何故、情報提供者として並河次郎を選んでいるか、その理由もふるっている。
いずれにせよ、「亡国のイージス」「終戦のローレライ」と、面白いのだが、どこか大時代的な大仰なものを感じていましたが、現在の国際情勢を踏まえ、テロをも持ってきたこの福井晴敏さんの「Op.ローズダスト」は、非常に面白いです。オススメです!
また、福井晴敏さんは、丁度、僕と同じ歳なのですが、伊佐幸太郎さんの「魔王」もそうなのですが、政治的問題もなにかブームのように吹き荒れ、その後、そんなこともなかったように歴史にも刻まれない風潮を主題にしよとしている作家が増えているのは力強い。
追記:テロということで、この「Op.ローズダスト」の中には、最新鋭と思われる沢山の武器が登場するのであるが、武器マニアも面白いのではないでしょうか。
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福井晴敏について
福井晴敏福井晴敏(ふくい はるとし、1968年11月15日 – )、は日本の小説家。東京都墨田区生まれ。高輪中学校・高等学校|私立高輪高等学校卒業、千葉商科大学商経学部経済学科中退。1990年代末以降の日本のエンターテイメント小説を語る上で重要な位置を占める小説家で