毎日新聞「今週の本棚」より
緩慢な発見 シュルテン・ナドルニー著 (白水社 2940円)
池内紀(独文学者)評
◇せわしい時代に光る、のろまな探検家の物語
海軍士官にして探検家の伝記。四〇〇ページをこえる大冊なのだ。幼いころから並外れてのろまだった。少年は本が好きだった。『緩慢の発見』がドイツで出たのは一九八三年である。のろまで緩慢なタイプにそなわっている大切な特性。のろくさい少年だが、はたして欠陥なのかどうか。少なくともそれは一つの長所と結びついている。時間をかけてよく見て、こまかく記憶している。どんな状況でもあわてないし、ねばり強く我慢して窮地を脱していく。優れた小説の特性だが、語りにテンポがあって、場面転換があざやかだ。これほどの離れワザを、たのしく大冊でなしとげた力量におどろく。ドイツ文学にあって、もっともっと紹介されていい作家なのだ。
グローバル経済の誕生 K・ポメランツ、S・トピック (筑摩書房 3990円)
松原隆一郎 評
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こうした説を聞けば、グローバリズムはごく最近になって進展したと思うだろう。弱者は自由貿易に応じれば強者に滅ぼされるという常識は、この「定説」によって否定される。本書は歴史学の泰斗(ポメランツは米歴史学会会長)2人による世界貿易史の第2版である。ところが本書が無数の逸話で語るのは、それとは真逆の事態である。世界の自由貿易の歴史は暴力とドラッグに染め上げられてきたというのだ。しかしいつまでも海賊頼みではやっていられない。そこでイギリスが中国に持ちこんだ物産が、植民地のインドで栽培したアヘンだった。逸話として興奮させられるのが、西欧の合理主義と個人主義を兼ね備えた経済人の理想的モデルとされるロビンソン・クルーソーが何者だったかの種明かしである。
本と人:『燃える家』 著者・田中慎弥さん
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晩年様式集 イン・レイト・スタイル
だから荒野
文学界 2013年 12月号 [雑誌]
私のなかの彼女
去年の冬、きみと別れ
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◇解決のない現代をたゆたう長編−−田中慎弥(たなか・しんや)さん
「(芥川賞を)もらっといてやる」と言い放った作家が挑んだ初めての長編
徹の友人、相沢良男は世界の無意味を唱える。その攻撃の矛先は、キリスト教をあいまいに信仰する女性高校教師、山根忍へ向かう。
海辺に「ババア」の水死体が上がった。米国をテロが襲った。
徹の実父、倉田正司は政治家。東京で政界の中枢にいる。
クライマックスのひとつは、信仰と救済を巡る相沢と山根の問答だろうか。
「私は小説を通して何かを言いたいのではなく、小説そのものを書きたい」。
「政治も経済も、手近で簡単な正解を求め過ぎです。議論がない。
どんな短編でも、ラストを全く考えずに書き始めるという。
なかなか面白そうな著者であり、作品だと思いました。
購入することにしました。
民主化のパラドックス インドネシアにみるアジア政治の深層 本名純 著 岩波書店 2835円
今週の本棚・新刊:『民主化のパラドックス インドネシアにみるアジア政治の深層』=本名純・著- 毎日新聞.
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その陰で、改革が逆に「非民主的」な勢力の温存と拡大を助けている、と本書は指摘し、その「民主化のパラドックス」に対して警鐘を鳴らす。本書で焦点を当てるのは、(1)スハルト体制の「終わり方」(2)「スハルト後」の民主改革(3)スハルト退陣からメガワティ政権までの民主化移行期における政治エリートの権力闘争(4)ユドヨノ政権下での民主化の定着(5)分離独立運動、テロリズム、住民紛争などの治安問題(6)民主化に伴うアウトロー社会の変容−−の六つの局面。権力と暴力の生々しい実態を、当事者へのインタビューをもとに描いていく。
うな丼の未来 ウナギの持続的利用は可能か 東アジア鰻資源協議会日本支部編 青土社 1995円
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環境省は今年2月、ニホンウナギを絶滅危惧種に指定し、国際自然保護連合も指定を検討している。
どうすればウナギを守り、持続的な利用を続けられるのか。
日本のウナギ消費量は世界の6〜7割を占めるとされ、日本人の「胃袋」がウナギの将来を大きく左右する。
日本経済新聞から
緩慢の発見 シュテン・ナドルニー 著 白水社 2800円
独文学者 池田浩士 評
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世界交通が海路だけだった時代、太平洋と大西洋をいかに短時間に船で結ぶかは、重大な問題だった。この北極航路を発見するために生命を燃やし尽くした英国の探検家ジョン・フランクリンが、本書の主人公だ。
史実を再現した伝記ではない。
作家によって創造された人物を物語る小説である。
だが、なんと魅力的な人物が創造されたことか。主人公は「緩慢な」人物である。だが、「遅さ」こそが重要な発見を成し遂げる。
私たちは「遅さ」の大切さをこそ発見しなければならないのだ。
ミツバチの会議 トーマス・D・シーリー 著 築地書館 2800円
北海道大学准教授 長谷川英祐
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顔を考える 生命形態学からアートまで (集英社新書)
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「流域地図」の作り方: 川から地球を考える (ちくまプリマー新書)
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でもどうして小さな脳しか持たないミツバチに高度な社会が営めるのか?
ミツバチの行動学の第一人者であるトーマス・シーリーは、ミツバチの巣分かれ行動を例に、そんな疑問に見事に答えてくれている。ミツバチの行動から人間の組織運営のヒントが得られるのだから、文系の方も一読の価値はあるだろう。同時にこの本は、科学がどのように進んでいくのかにもわかりやすく教えてくれる。
文庫・新書
「経済学の3つの基本」 根井雅弘 著
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金融政策入門 (岩波新書)
平和構築入門: その思想と方法を問いなおす (ちくま新書)
世界と闘う「読書術」 思想を鍛える一〇〇〇冊 (集英社新書)
歴史をつかむ技法 (新潮新書)
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経済学史を専門とする著者が、経済成長、バブル、競争という3つのテーマに世界の経済学者たちがどう取り組んできたかを描き出す。
新刊案内
日本の統治システムと選挙制度の改革 加藤秀治郎 著
衆院に小選挙区制を導入し政権交代可能な二大政党制の樹立を目指したのなら、衆院の優越を明確にすべきだというのが著者の主張だ。
衆院選が「国民の審判」になっていないのは、議会と選挙の仕組みがばらばらに論じられているからだという。
著者は10年前の著書で日本の政治の仕組みを「選挙制度のデパート」と批判した。
読売新聞 本よみうり堂 より
フラクタリスト マンデルブロ自伝 ベノワ・B・マンデルブロ 著
管啓次郎 詩人・比較文学者 明治大教授 評
『フラクタリスト―マンデルブロ自伝―』 ベノワ・B・マンデルブロ著 : 書評 : 本よみうり堂 : YOMIURI ONLINE(読売新聞).
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世界恐慌(下): 経済を破綻させた4人の中央銀行総裁 (筑摩選書)
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異端の統計学 ベイズ
変わるエジプト、変わらないエジプト
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こうした事象をごく簡単な数式により表わすのがフラクタルの理論。
このフラクタル幾何学の創始者がベノワ・マンデルブロだ。自伝が描き出すその人物像と生涯のおもしろさは本書で堪能することができた。一家が戦時の苦難をなんとか乗り切ったあと、ベノワはフランスの超エリート校である高等師範学校に入学。だが、1日で辞める。有名な数学集団ブルバキが支配する純粋数学の学風を嫌ったためだ。やがてIBM研究所を主な舞台として、数学・物理学・工学・経済学といった分野にさまざまな斬新な着想をもたらした。
小さな会社を強くするブランドづくりの教科書 岩崎邦彦 著
開沼博 社会学者 福島大特任研究員 評
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モノでなくコトを売る
「ものづくり」から「ブランドづくり」へ。
本書はいかなる要因がブランドの価値を高めるのか、多様な観点から論じる。
モノ(トマトそのもの)ではなくコト(キャッチコピーやそのトマトを使う文脈など様々な物語)を売る。
ブランドの他分野への拡張は慎重に行い、一貫性を持たせる。安易な価格競争の疲弊戦から逃れるには、独自のブランドを確立し、より広いファンを作り続けるしかない。
品質や機能性も重要だが、その上でいかに人の感性に訴え商品を売るのか。「ブランドづくり」の時代を作り上げたのは商品のつくり手や売り手であるが、他方で、消費者自身がそれを強く求め続けていることも忘れてはならない。
ブランド作りは、ソーシャルメディア全盛の時代、何も経営者のみが考えねばならない問題ではないだろう。
個人も自身のブランド作りに何らかのヒントが詰まっているのではなかろうか?
変わるエジプト、変わらないエジプト 師岡カリーマ・エルサムニー 著 白水社 1900円。
評 星野博美 ノンフィクション作家、写真家
『変わるエジプト、変わらないエジプト』 師岡カリーマ・エルサムニー著 : 書評 : 本よみうり堂 : YOMIURI ONLINE(読売新聞).
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エジプト革命 – 軍とムスリム同胞団、そして若者たち (中公新書)
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成長から成熟へ さよなら経済大国 (集英社新書)
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激動を生き抜く日常
NHK教育テレビ(現Eテレ)のアラビア語講座だった。
エジプト人の父と日本人の母を持つ講師のカリーマさんが紹介する様々なエピソードから、アラビア半島とエジプトがいかに異なるかを知らされた。彼女が案内人だったらきっとドアはみつかる、と思ったものだ。
本書は彼女が書いたエジプト文化にまつわる22篇のエッセー。ふつうの人々が何を食べ、どのような音楽に熱狂し、何に憤り、どんなことに腹を抱えて笑うのか。
エジプト人の日常を切り取ってゆく。
・・・記者が選ぶ・・・
マルクス 資本論の思考 熊野純彦 著
『マルクス 資本論の思考』 熊野純彦著 : 記者が選ぶ : コラム : 本よみうり堂 : YOMIURI ONLINE(読売新聞).
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〈マルクスの遺したテクストを読みとくことは、世界の現在を解きあかすことにほかならない〉
私たちが生きている世界はいまも、資本制の圧倒的な支配下にあるのだ。
700ページ超の大著は、マルクス研究で知られる恩師で来年没後20年を迎える哲学者・廣松渉への長大な献辞なのかもしれない。
朝日新聞 読書 より。
ニュースの本棚 ■鄧小平伝を読む 同志社大学教授(中国政治社会研究)加藤千洋氏
トウ小平伝を読む 加藤千洋さんが選ぶ本 – 加藤千洋(同志社大学教授・中国政治社会研究) – ニュースの本棚 | BOOK.asahi.com:朝日新聞社の書評サイト.
エズラ・ヴォーゲル 現代中国の父 鄧小平
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現代中国の父 トウ小平(下)
ライス回顧録 ホワイトハウス 激動の2920日
政治の起源 上 人類以前からフランス革命まで
第二次世界大戦 影の主役―勝利を実現した革新者たち
世界恐慌(下): 経済を破綻させた4人の中央銀行総裁 (筑摩選書)
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外国人による伝記としてはエズラ・ヴォーゲル氏の『現代中国の父 トウ小平』に勝るものは過去にないし、今後も当分は現れないのではないか。
ゾミア 脱国家の世界史 ジェームズ・C・スコット
評 柄谷行人 哲学者
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社会契約論: ホッブズ、ヒューム、ルソー、ロールズ (ちくま新書 1039)
動きすぎてはいけない: ジル・ドゥルーズと生成変化の哲学
ウォール街の物理学者
来るべき民主主義 小平市都道328号線と近代政治哲学の諸問題 (幻冬舎新書)
ユートピア的身体/ヘテロトピア (叢書言語の政治)
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表題の「ゾミア」とは、東南アジア大陸部(ベトナム、カンボジア、ラオス、タイ、ミャンマー)および中国南部の丘陵地帯を指す新名称である。そこには、まだ国民国家に統合されていない人々が存在する。彼らは主として、焼き畑と狩猟採集で生きている。水稲農業は必ず国家の支配、階級的支配をもたらす。そこから逃れるため山地に向かった人々が、焼き畑狩猟を始めたのである。本書は「ゾミア」の地域について詳細に分析するとともに、それが各地に普遍的に存在することを示唆している。事実、このような山地民の世界は、日本人にとって無縁ではない。たとえば、柳田国男は約1世紀前に、宮崎県椎葉村で焼き畑狩猟民の「社会主義」的世界を見た衝撃から、また、このような山地民の世界がまもなく消えてしまうだろうという危機感から、民俗学研究に向かったのである。
ウォール街の物理学者 ジェームズ・オーウェン・ウェザーオール 著
評 川端裕人 作家
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フラクタリスト――マンデルブロ自伝――
人類が絶滅する6のシナリオ: もはや空想ではない終焉の科学
金融リスク管理を変えた10大事件
世界恐慌(上): 経済を破綻させた4人の中央銀行総裁 (筑摩選書)
世界恐慌(下): 経済を破綻させた4人の中央銀行総裁 (筑摩選書)
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■市場に潜む法則、科学で挑む
2008年、リーマンショックなどの金融危機が世界を襲った時、著者は物理・数学の博士課程の学生だった。金融危機の元凶として数理モデルへの過信を糾弾する声に耳を傾けつつも、別の物理学的方法で危機を生きのびた(むしろ利益をあげた)投資会社があることも知る。サイエンスライターとなった著者は、まず物理学的な手法が金融を変えてきた歴史を辿(たど)る。就職先がなくなった物理学の学生がウォール街に向かったこと(70年代)その一方で、金融の数理モデルに不信を唱える者は今も多い。
人類が絶滅する6のシナリオ もはや空想ではない終焉の科学 フレッド・グテル
評 萱野稔人 津田塾大学教授・哲学
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宇宙が始まる前には何があったのか?
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ヒッグス 宇宙の最果ての粒子
にわかには信じられない遺伝子の不思議な物語
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■地球史レベルでみる「私たち」
本書は題名のとおり、その人類が絶滅するシナリオを六つあげて論じている。
ただし本書が描くのは、火山の大爆発や巨大隕石(いんせき)の衝突といった自然のプロセスによって引き起こされる人類の絶滅ではない。食肉の大量生産によって発生のリスクが高まってしまったスーパーウイルスの脅威や、人類が放出する温室効果ガスによって突然引き起こされうる気候変動の危険性など、人類自身がみずからの絶滅を早めてしまうかもしれない要因を論じることがそこでのテーマである。とても読みやすい科学の本
【著者に会いたい】
あなたはまだ何も知らない ヴィルジニー・ムザ
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■女性の不確かな思いを描く
長身で、人目を引く美貌(びぼう)。だが生殖器官が未発達のまま成長してしまったため女性としての意識を持てない。そんな女性を描いたのは、いま世界で最も影響力のあるファッションジャーナリストのひとり。執筆のヒントは、離婚や同性愛で悩む知人が多かったこと。もとは文学少女で、特に日本文学が好き。源氏物語や谷崎潤一郎、三島由紀夫。最近では村上春樹の「狂気と礼節、繊細さと野性、情熱と静かさの間を行き来する美意識」に惹(ひ)かれる。次作は現代の「自殺」がテーマ。東京のホテルで書くという。
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