幾つかの店を廻り、僕は、マウンテン・カフェの前に立っていた。
「今日、マスター、いるかな?」
ドアの前から、店内を覗き込んだ。
店内には、以前の彼女が、コップを洗っていた。
(今日もマスターは留守のようだ。}
一応、挨拶をしておこうと思い、扉を開けた。
「こんにちわ。」
「こんにちわ。」
「今日も、マスターは留守のようですね。」
「今日は、しばらくすると戻ってきますよ。」
「そうですか。じゃ、しばらく待たせて貰います。」
椅子に座り、コーヒーを頼み、文庫本をパラパラ、めくっていた。
なかなか洒落たカフェだ。
音楽に煩い僕でも、この店のBGMには納得してしまう。
「ここ、長いの?」
「あっ、はい。高校生の時、よく通ってて、大学生の時から、バイトに入ってます。」
「そうだね。美味しいよ!コーヒー。」
「ありがとうございます。」
「ここのインテリアは、オーナーの趣味?」
草薙は、ゆっくり、店内を見回しながら、話した。
「えぇ。多分。私が、女子校生の時代から、こんな感じでした。」
「でも、その隅のコーナーが、少し変わったかな。」
「洒落てるよねー。」
「オーナーさん、趣味がいいから。」
何だか、仕事の話の敷居が高くなったような気がした。
「オーナーさんって、どんな人?」
「女性の私でも憧れてしまうような、カッコイイ女性です。」
「ふ~ん。そーなの。」
「美人なの?」
「とても美人な人です。」
草薙は、どういう美人なタイプか、少し想像してみた。
洒落たカフェのインテリアと高いセンスの音楽の趣味・・・・。
この地ではなく、東京かどこかのセレブなマダムというのを、イメージしてみた。
が、それでは、バブルぽくない、趣味のいいインテリア、どこかで聴いたようで、全く聴いたことのないハイセンスなミュージック・・・・。
少し、そぐわない。
細身で、黒のスカートに、ブレザーに身を包んだ細長の、何処か近寄りがたいイメージの女性・・・・。
そんな人だろうか?
「マスター、よく話すの?」
「どうでしょう?私とは、盛り上がると、よく話しますが、マスターから、積極的に話すタイプではないかも知れませんね。」
少し、仕事の話を切り出すのに、緊張が高まった。
チャラン、チャラン。
扉のベルの鈴の音が、店内に鳴り響いた。
草薙と店の女の子が、同時に、ドアの方を向いた。
熱い太陽をバックに、細身のシルエットが浮かんでいた。
僕の瞳の中に、そのシルエットが焼き付き、頭の中で、何かの警報がなったのを、僕は、僕自身から距離を取りながら、聞いていた。
この「いずみと僕とマウンテン・カフェ」は、Google+ で、思いつくままに書いていたショート・ショートの一つであり、それらのショート・ショートは、Google+ のアカウントを何回か削除するうちに、紛失してしまいました。
辛うじて、僕の印象に残っている、この「いずみと僕とマウンテン・カフェ」は、1話を元に、Google+ とは異なったストーリー展開を辿っていく予定です。