伊坂幸太郎「魔王」


話題の伊坂幸太郎「魔王」を読んでみた。伊坂幸太郎さんは、今、飛ぶ鳥落とす勢いの実力派作家だが、僕は本書で初めて伊坂幸太郎氏の著書を読んだ。

魔王
魔王
伊坂 幸太郎


<ストーリー紹介>
本書は二部構成になっています。新聞の書評やブログの紹介でも主に第1部を取り上げていますが第2部を取り上げているところは少ないです。

主人公は交通事故で両親をなくした2人兄弟と弟の彼女です。

<第1部>
兄が電車内での出来事を通して自分の不思議な力に気付く所から始まります。
その頃同時に、犬養という小さな野党党首が威勢のいいことを言って注目を集めています。
兄は犬養のことを「ムッソリーニに似ている」と感じ、ファシズムの恐怖を感じていました。





兄は学生時代、「でたらめでもいいから、自分の考えを信じて、対決していけば世界が変わる。」という考えの持ち主であった。
時代や社会は、ますます犬養の登場を必要とする状況になりつつあります。

犬養にファシズムの脅威を感じる兄は、自分の不思議な力で犬養と対決しようとする・・・・。

<第二部>
兄がなくなって5年後、犬養は首相となっていた。そして、まさに国民投票によって憲法が改正されようとしていた。

弟潤也とその彼女(既に結婚している)詩織は、仙台でひっそりと暮らしていた。
兄と同様、兄が死んでから自分の不思議な憑きに気付いた弟潤也と詩織であった。

兄に「何かやるとしたら、俺じゃなくて、潤也だよ」と言われていた弟潤也は、静かに何事か決意し、不思議な憑きを利用して、あることを実行していく・・・。





<感想>
本書は、それほど長い物語ではなく(中篇くらいかなあ)、一気に半日で読めました。

この物語の基調にあるのは、シューベルトの「魔王」です。
簡単にこの「魔王」の歌詞を紹介すると、闇夜に、父が息子を連れて、馬で走っています。息子が魔王の気配に気付き、そのことを父に言うと、父は気のせいだと言います。親子が館に着くと息子は死んでいたというものです。

文末に伊坂幸太郎氏は「ファシズムや憲法が出てきますが、それらはテーマではありません。かと言って、小道具や飾りでもありません。」

僕が考えるに伊坂幸太郎氏は、日本人が世の中の流れに、ただ流されるだけで、時が経つとすぐ忘れてしまう中、それらの流れにこだわり独りで棹さす人間を描きたかったのではなかろうか。

いずれにせよファシズムや憲法改正が出てきますが、描かれているのは主人公たちの日常で、全く小難しくはありません。
今後も伊佐幸太郎氏の作品を読みたいと思います。





評価:★★★☆☆

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  1. 魔 王

     伊坂幸太郎:著 『魔王』  いつものごとく、軽妙な語り口で始まったのに、 いつのまにか、不穏な、目に見えないものが ひたひたと迫ってくる、恐ろしさ。 「魔王」といえば、シューベルトの有名な歌曲があります。 魔王の存在に気づいている子どもは、

  2. 魔王

    この作品の中で強く頭に残る言葉として「諸君はこの颯爽たる諸君の未来圏から吹いて来る透明な清潔な風を感じないのか」という三行からなる文でしょう。これは宮沢賢治の作品の一文なのですがこの一文をテーマというか題材にして魔王は創られています。虚無や無関心

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