早川書房 「ミステリが読みたい!2008年版」[日本部門]ベスト10発表!!


本屋で偶然、見つけたのですが今年から早川書房も年末恒例となったランキングに参加したようです。
他誌と違うのは、読者アンケート結果を加味しているというところでしょうか。
それでは、いってみましょう!



1位 『楽園(上・下)』  宮部みゆき
   文藝春秋      69点(21+45)

少年の絵に残された謎を追う待望の『模倣犯』続編!
<ストーリー>

『模倣犯』事件から9年後の2005年5月、『模倣犯』の事件に深く関わったルポライター前畑滋子の前に53歳の女性荻谷順子が現れる。
2ヶ月前、彼女は12歳の一人息子を交通事故で失っていたが、その息子は生前不思議な絵を沢山残していた。
その中には、彼が死んだ翌月の土井崎家の事件の現場とおぼしきものもあった。
順子は、その絵が超能力によるものではないかと考えていた。
やがて彼の絵の中に『模倣犯』事件の現場を描いたとしか思えない1枚を発見した滋子は、わだかまりを払拭するためにも、本腰を入れて土井崎家の事件を調べ始めるが・・・。


前作とは一転、SF的な趣向を生かし、埋もれた犯罪を市井の人間ドラマと絡めて浮き彫りにしてみせた、著者・宮部みゆきの18番の現代ミステリー。
頭から読書の意表を突く仕掛けが施されている。

香山二三郎評より
超能力がテーマといえば、著者・宮部みゆきの『龍は眠る』や『クロスファイア』でも既にお馴染み、宮部みゆきにとっては18番の一つではあるが、シリアスなタッチで一貫した『模倣犯』と比べると、本書『楽園』は現実離れした印象を抱かさせるかもしれない。
だがやがて萩谷家はもとより土井崎家と彼らをめぐる関係者の様々な家族像が浮き彫りになるにつれて、宮部みゆきならではの現代人情劇の妙に陶然とさせられる事になるだろう。
宮部マジックはいまや熟成の極み。
今回も多くの読者を魅了させずにはおかないのである。

2位 『赤朽葉家の伝説』 桜庭一樹
   東京創元社     57点(18+39)

三世代の女たちの伝説と秘密を描く著者渾身の一作
<ストーリー>

鳥取のある村。”辺境の人”が置き去りにしていった3歳の娘・万葉は、成長すると製鉄で成功した村一番の富豪に嫁入りすることになる。
未来を見る能力を備えた万葉は、やがて子を生む。
その子供の一人毛鞠は、暴走族のリーダーとして山陰地方に君臨し、その後少女漫画家に転進して大成功を収めた。
毛鞠の娘が瞳子。
高校生となった瞳子は、万葉のいまわの言葉を耳にして、赤朽葉家の過去に潜む謎を解決しようと決意する。

赤朽葉家の60年の栄枯盛衰を戦後日本を投射しながら3人の女性の視点を通じて力強く描いた長編小説。

実に巧みに構成されたミステリだと評者・村上貴史氏。

3位 『首無の如き祟るもの』  三津田信三
   原書房       54点(18+36)

「首のない死体」パターンに新機軸を打ち出した傑作
<ストーリー>

媛首(ひめかみ)村で代々地主を務めてきた旧家・秘守(ひがみ)一族。
戦時中、その本家である一守(いちがみ)家の長女・妃女子(ひめこ)が井戸の中から首なし死体となって見つかった。
それから10年後、妃女子の双子の兄・長寿郎(ちょうじゆろう)の花嫁候補が首なし死体と化し、更に第二、第三の犠牲者が出る・・・
まるで、数百年前に非業の死を遂げた「淡首(あおくび)様」の祟りのように。


ホラーと本格ミステリという二つのジャンルを往還しながら個性的な作品世界を編み上げている代表的な作家が三津田信三である。
2006年、ホラー本格『厭魅(まじもの)の如き憑くもの』で注目を集めた三津田は、07年には3ヶ月連続で書き下ろし長編を刊行し、ファンを狂喜させた。
その第1弾を飾った本書は、放浪の怪奇作家・刀城言耶(とうじょうげんや)シリーズの第3長編。
戦中・戦後期の奥多摩で起きた、忌まわしい連続殺人事件を描いている。

千街晶之・評より
このシリーズにしてはぺダントリーはかなり抑えられているし、ホラー的な雰囲気の盛り上げも幾分控えめだが、パズラーとしての完成度では三作中ベストだろう。
何といっても、事件をめぐる二十一もの謎や疑問が、たった一つの事実に気付くことによって全て解けてしまうというスマートな構成が出色。
本格ならではの知的愉悦で満ち溢れた一冊。(シリーズのファンからすると、探偵役でありながら刀城の出番が少ないことに不満を覚える向きもあるだろうが。)
それでいて、ひたひたと静かに迫ってくるような恐怖の演出も、抑制気味とはいえ力が籠もっている。
本格と民俗ホラーの融合路線にどのような可能性が残されているのか、シリーズの行く末に期待を寄せずにはいられない。

4位 『離れた家-山沢晴雄傑作集 日下三蔵セレクション』
   日本評論社     42点(15+27)

本格ファン必読、“本格の鬼”の傑作集が遂に登場!!
<解説>
半世紀以上も前、江戸川乱歩が編集していた《宝石》誌の懸賞に応募してデビューし、作品を発表し続け、本格ミステリ・ファンからは強く支持されてきたというのに、これまで一冊も(商業ベースでの)単行本が出ていなかった山沢晴雄。
その傑作中短編集『離れた家』が遂に刊行された。
デビューが古く、初の単行本だからといって、決してレトロが売り物なわけではない。
本書『離れた家』には、1996年に発表された作品も収録されているのだ。
山沢晴雄は、現在でも意欲的な創作活動を続けているのである。





『離れた家』は、三部構成となっている。
第一部は、私立探偵・砧順之介が活躍するシリーズ短編。
これぞ本格の中の本格ともいうべき“純粋本格”作品だ。
第二部は、ノンシリーズ作品。
そして第三部は、難解すぎるとの評判が高かった中篇「離れた家」。
腰を据えてじっくり読みたい逸品だ。

これまで山沢作品を読みたければ、昔の雑誌やアンソロジー、同人誌を集めなければならなかったが、本書『離れた家』一冊で十一篇も読めるのだ。

評者、北原尚彦

5位 『サクリファイス』 近藤史恵
   新潮社       39点(30+9)

真の<犠牲>とはなにか?衝撃のラストに震えよ!
<ストーリー>

ロードレースチーム「チー・オッジ」の若手選手・白石誓(ちかう)は、エースを勝たせるめに伴走するアシスタントしての役目を務めている。
彼はかつて、幼馴染の初野香乃と恋仲だったが、彼女に別れを告げられたことが精神的な精神的な傷となっている。

一方、「チーム・オッジ」のエース・石尾豪には、自分の座を脅かす若手を容赦なく潰すという黒い噂があった。
あるレースで、白石は優勝のチャンスを掴みかけるが、石尾を勝たせる道を選ぶ。だが、このレースでの彼の活躍ぶりに注目したスペインの強豪チームに誘われ、海外への活躍の道が開ける。

そんな白石の前に、初恋の相手・香乃が現れる。彼女は、現在、石尾のせいで車椅子生活を余技されている引退したと噂される元選手・袴田と交際していた。
袴田は、本当に石尾の犠牲になったのか?白石が疑惑をもてあますうち、ついにレースの最中に惨事が発生する・・・結末のドラマは、二転三転する。

<解説>
近藤史恵作品の特徴は、主に女性の登場人物たちが抱える《女性性》特有の悩みや痛みを剔出し、直視したくない己の暗部を見つめさせる事を通じて、ある種の癒しが与えられていくことにある。
しかもその過程が、謎解きのプロットと密接に絡み合う。

特殊なルールを持つスポーツの本質と題名にもなっている《サクリファイス》(犠牲)というテーマが不可分に結びついた物語である。
チームメイとの犠牲によって栄光をつかむエースの矜持と責任。
一面的にはとらえることのできない複雑な心の揺れ動きを浮き彫りにしていく。
稀に見る傑作スポーツ・ミステリである。

評者・西上心太

6位 『果断―隠蔽捜査2』 今野敏
   新潮社       33点(12+21)

警察庁キャリアを刑事の世界に放り込んだ新・警察小説
<ストーリー>

東大出身の高級官僚として警視庁における熾烈な生存競争に勝ち抜き、警察庁長官官房総務課長の地位にある竜崎。
しかし、『隠密捜査』に描かれた騒動によって、大森警察署の署長職に追いやられてしまう。
その彼を待ち受けていたのは、管内で発生した立て籠もり事件だった・・・。

<解説>
大学在学中の1978年に『怪物が街にやってくる』で第四回問題小説新人賞を受賞してデビューした今野敏は、2006年になって、ようやく第二十七回吉川英治文学新人賞という大きな賞を射止めた。
その受賞作『隠密捜査』の続編が、この『果断 隠密捜査2』だ。

前作『隠密捜査』は、警察を舞台としてはいるものの、キャリアの世界で生きるキャリアを描いた小説であった。
それに対して、続編の『果断』は、ストレートな警察小説である。

デビュー以来、様々なジャンルで数多くの作品を発表してきた今野敏。
格闘小説や伝奇小説、あるいはSFなど、その作風は実に多彩だが、執筆活動の軸足は警察小説である。

村上貴史・評より
竜崎という厄介な大物を放り込まれた大森署の当惑もたっぷり読ませる。
新たに始まったこの竜崎シリーズ、今後の展開が楽しみでならない。
未読の方は、今のうちに読み始めることをお薦めしたい。
今野敏の小説だけに、退屈とは全く無縁である。

7位 『悪人』     吉田修一
   朝日新聞社     27点(18+9)





いま私たちが生きる日本のリアルを浮き彫りにする

<ストーリー>
事件は月並みな殺人事件であった。
福岡と佐賀の県境の峠で若い女性が殺された。
この峠は幽霊が出るという噂があるので、ホラー的な方向に進むかと思いきや、むしろ怪談じみた趣向によって、逆にこの殺人事件のありふれた安っぽさが強調される。

被害者の女は保険外交員で、出会い系サイトで複数の男とデートを重ね、売春まがいの行為も抵抗なく行っていた。
だが、吉田修一はその月並みを見事に描きあげる。
この絵に描いたような安っぽさの中にこそ、今私たちが生きる日本のリアルがあることを痛感させられる。
二〇〇二年一月六日、長崎市郊外に住む若い土木作業員が、福岡市内に暮らす保険外交員の石橋佳乃を絞殺した容疑で長崎県警に逮捕された。

過去、佳乃は出会い系サイトで知り合った土木作業員・清水祐一とデートをしていた。
それが事件の始まりだった。
いったい、二人に何があったのか?

物語は時間をさかのぼり、加害者と被害者、それぞれの家族親戚や友人、会社の同僚や出会い系サイトで知り合った男たちを丹念に追いながら。事件の全体像を立体的に見せていく。

<解説>

著者・吉田修一は、芥川賞を受賞した小説家である。
つまり、いわゆる純文学の作家であり、この小説『悪人』も、ジャンルとしての「ミステリ」小説ではない。
にもかかわらず、純文学と娯楽小説の境界を越えたところで、今年書かれた犯罪小説として屈指の出来を誇っている。
吉田修一自身にとっても、最高傑作と呼ぶべき作品になっていると思う。

中条省平・評より

7位 『ノーフォールト』  岡井祟
   早川書房      27点(0+27)

9位 『X橋付近 高城高ハードボイルド傑作選』 高城高
   荒蝦夷       24点(15+9)

注)Amazonでも取り扱いしていないようです。

9位 『密室キングダム』  柄刀一
   光文社       24点(9+15)

<ストーリー>
一九八八年夏、札幌。
右腕の麻痺のために引退していたマジシャン・吝(やぶさか)一郎の復帰講演が行われようとしていた。
脱出するマジックの最中、マイクを通じて聞こえる彼の声が異変が生じた。

驚いて駆けつけた人々が見たものは、ドラキュラさながら、棺の中で心臓に杭を打ち込まれて死んでいる一郎の姿だった。
しかも現場は、棺のみならず部屋も施錠され、廊下では新聞記者たちが見張っていたという三種の密室状態。

一郎からマジックを教わっていた若者、南美希風は、この密室の謎を解いていく。
やがて、吝家の過去を知る西上キヌという老女が変死を遂げる。
次々と密室殺人事件を起こす犯人と、南美希風の頭脳戦の行方は?

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