村上春樹と僕と君と。


僕と村上春樹との出会いは、僕の学部時代、街がすっかり、キズキや直子らに染まっていた、ちょうど、今のように、涼やかな風がなびく秋の頃だ。

誰もが、「僕とキズキと直子らの世界」に夢中になっていた。
まだ、バブルなんて姿かたちも現さない幸せな時期だった。

しかし、それほど分厚くないその物語は、僕にはあまり興味を持てなかった。
多分、君が連れって行ってくれたお洒落なバーで、朝まで二人きりで飲み明かしたあの晩、「村上春樹は、『ノルウェイの森 (講談社文庫)』よりも、羊シリーズが面白いですよ。」と謙虚に教えてくれなければ、僕は、彼の作品を、多分、話題作くらいしか読まなかっただろう。

他の奴ならともかく、君がそう言うんだ。面白いのだろう、きっと。
そして、羊シリーズの第1作『羊をめぐる冒険 (講談社文庫)』を読んでみた。
面白かった。
そして、とてもユニークな作品だった。

正確には、”羊”は、デビュー作から登場していたのかもしれないが。

大江健三郎の『個人的な体験 (新潮文庫)』(1964年)の主人公・鳥(バード)。
万延元年のフットボール (講談社文芸文庫)』(1967年)。『1973年のピンボール (講談社文庫)』(1980年)。

積極的に社会に政治的アピールを繰り返す旧世代の大江健三郎氏と、今でこそ、原発などに発言をする村上氏だが、ずっと頑なに「小説家は、その作品ですべてを語る。」と沈黙を守り続ける村上春樹。

加藤典洋の言うように「大江か村上かではなく、大江と村上」なのだが、彼らについて専門家は、あまり語ってくれないのだ。

大江と村上となら、断然、村上春樹作品の方が、多く読んでいるのだが。
僕は、例え読むのに大変、骨が折れようとも、大江のほうが断然、世界に類を見ないほど、その作品は独創的だし、例え、その政治的立場が、僕のそれとは随分、違おうとも、僕は、オールドファッションの大江健三郎が好きなのだ。





さて、村上春樹だ。
続いて読んだ『ダンス・ダンス・ダンス(上) (講談社文庫)
映画もそうだが、僕は恋愛ものに、大して興味を示さないのだが、これは、面白かった。

その後、彼の作品は、長編を中心に大分読んだが、僕が一番、面白いと思ったのは、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 新装版 (新潮文庫)』かもしれない。

本屋で見ると、二つの物語が別々に進行してるなんて、と随分、ほうっておいたのだが。
この作品には、とても文学高い香りがする。
それに、外国人は、よく彼の作品を、“カフカ的”と表現するが、まさにこの作品がそうかもしれない。

その後、mixiの読書系コミュをきっかけに、短編小説も読むようになった。
が、それほど面白いとは思わなかった。

短編小説には、如実に、彼の描く主人公らは、とてもハイソな生活をしている。
事実、彼自身、こちら兵庫の関西人なら、ごく当たり前に知っている、関西唯一の高級住宅街・芦屋で育っている。

文学とはそういうものかもしれないが、彼の描く神戸。
港町。南に海が広がり、反対側に六甲山がそびえる。
急斜面が多く、坂を駆け上がらなければならない。

彼の描く無国籍な神戸と、僕の知る神戸とは結びつかない。

今、君は神戸で仕事をし、神戸に住んでいるようだね。
それも、随分と偉くなって。

残念ながら、すぐ近くに住みながら、君がアメリカに渡ってから、僕には連絡がないけど。

僕が強引に何度も、ステレオのスピーカーの事で何度も電話したことを、怒ってるのかい?
確かに、僕も若かったし、色々、ストレスを感じていたのだが。





君は、今でも山に登っているらしい。
でも、君も相変わらず、多趣味のようだが、君がHPに貼り付けている写真は、お世辞にも上手だとは言えない。
僕も、まだまだ初心者の一人だが。

とにかく、ありがとう!!
僕に、村上春樹を紹介してくれて!

もぅ、会ってみたいと思う人物など存在せず、同門会に出席するつもりのない僕は、このまま一生、君に会わないだろう。
だけど、感謝している。

世界は、随分、チポッケに、それに、随分、醜くなった。

研究室では、”できそこない”のレッテルを貼られてしまった僕だが、これでも、入学時、予備校の調査では、学内2位だったりする。
それに、学部生の頃、僕らの先生H先生へ提出したレポートが、学内唯一“very good”だったりする。
その内容とは、先生の出した課題本に対して、「こんなの科学でもなんでもない。」と、僕なりに一つ一つ、例証を挙げながら、ケチョンケチョンにけなした内容だったのだが。

僕も生意気な学生の一人だったのだ。
そんな内容を、高く評価してくれた僕らの先生もユニークだ。

先ほど、退官された倫理もヘッタくれもなかった当時、助教授だったY先生が、アジアの事を考えていただなんて、僕は、今でも信じがたい。
真に、人の内面とは、ミステリーだ。

僕も僕なりに努力してみたが、科学者の道は諦めた。
ただ、あの日、ほんの少し話題に出た岸本忠三の弟子、審良静男の門を叩こうとした僕の眼は、確かだったようだ。
彼は、今、ノーベル賞に最も近い科学者のひとりとなっている。

“My dream that I become Scientist failed,but i’m not beaten by life. ”

最後に、君があの晩、僕がトリュフォーのファンであることを、言い当てたことを、心底、驚いている。
君が映画を観ていたなんて、意外だったし、君と映画の話をした覚えもないのに・・・。

嬉しいというよりも、はっきり言って、空恐ろしくなった。





では、君が後々まで残る実験結果を残す事を期待しつつ。
あの晩は、僕の真に愉快な一夜の一つだ。

そして、君は、僕のご自慢の後輩だ。

「そうだ。ここが世界だ。ここで跳べ。」

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