[ 読後感想 ] 大江健三郎著『宙返り(上)』 オウム真理教事件を受けて、大江健三郎氏が何をどのようなことを読者に訴えようとしているのかを考えつつ、下巻に取りかかった。

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僕は、1968年生まれで、現在、52歳だが、リアルタイムで経験したオウム真理教事件は、相当ショックであった。

世間一般の人同様、理系の大学院まで行ったような高学歴な人間が、麻原のインチキくさい、似非科学に騙され、彼の言っている事を安易に信じてしまうのが、僕自身、理系の大学院を卒業した身であったが、全く不思議であった。

同じ大学院でも文系ならまだしもであったが、仮にも理詰めで考察せねばならない理系分野の人間が、錬金術のような摩訶不思議な事を信じてしまうというメンタリティが理解できなかった。

また、地下鉄サリン事件の実行犯に医師がいたというのも、同じく医療系大学に進学し、医療系にも就職した経験がある僕には、ショックであった。
裁判の過程で、臨床、つまり現実世界との接点が大きい医師から、麻原の呪縛から解けて行ったのは、ある意味当然だとしても。

自分の学んだ分野、仕事に大いに関係するこの事件に、僕は大いに興味をそそられた。

ついでに言っておくが、まさか後年、そんな大事件を起こすとは思っていなかったのであるが、朝ナマに出演していた麻原彰晃の言っている事は全て簡単に否定すべきものと片付ける訳にはいかず、他に出演していた新興宗教の教主らの中でも、或る種、魅力を放っていたといってもよいかも知れない。
少なくとも、僕の目にはそう写った。

大金と共に逮捕されたからと言って、麻原彰晃をその後流布されたような俗物イメージのみで捉えてはダメであると僕は思う。

なんだかんだと言って、その後存続したオウム真理教であるが、僕は、何らかの世間の軋轢を生むと考えていたが、予想に反して、その後、大きな世間との軋轢もなく表面上は、静かな活動を行っているようだ。

単に、妄想を抱いていただけなのか?それでも、多くの信者を惹きつけた麻原彰晃の人間性とは、どのようなものであったのか?
興味は尽きない。

事件後、幾つかオウム真理教事件に関する本を購入したが、今更ながらやっと、この『宙返り』を読み始めた。

読中、物語自身の魅力にも魅せられるが、やはり、僕が一番気になる点は、オウム真理教事件との関係である。

宙返り(上) (講談社文庫)



 

物語の視点、語り手 木津

登場人物

師匠(パトロン)  教祖
案内人(ガイド)
木津  画家
育雄  木津と男色関係にある。
踊り子(ダンサー) 育雄と子供時代に因縁を持つ。教団の事務・受付を引き受ける。
荻青年
技師団  かつての急進派ら。男性の技術者ら。
古賀医師  技師団の一人
静かな女たち  宙返りを信仰を守り続け、教団の活動再開後に再び教団の活動に加わる主に女性と子供を中心とした集団。

<物語>

師匠と案内人は、自分達の信徒である急進派らの動きに危険なものを察知し、今までの自分らの説いてきた教義は全て冗談でしたという「宙返り」をTVを通して行う。
そして、師匠と案内人は、地獄のような日々を送ったという。
そんな師匠と案内人が、再び、宗教活動を再開するという。

師匠と案内人との関係は、師匠が見たヴィジョンを案内人が、こちら側にいる人達に通じる言葉で解釈を与え、解説するというものである。
そんな彼らに対し、急進派らは、案内人を吊し上げ、死に至らしめてしまう。

再開した宗教活動で木津は、案内人の役割を与えられる。
木津は、小学生時代に美術を通して印象的な出会いをした育雄と再会する。
木津と育雄は男同士の肉体関係を持つ。

自然の総体である神が、恢復不能の病いにおかされていることになる。(p 421)

[読後感想]

オウム真理教事件を受けて、大江健三郎氏が何をどのようなことを読者に訴えようとしているのかを考えつつ、僕は下巻に取りかかった。

率直に言って、凄い構想力だと思う。

この『宙返り』は、オウム真理教事件を受けて書かれたものであるが、この物語において、オウム真理教は、どのような位置を占めているのかが気になりつつ読んでいたが、当初、オウム真理教の存在はほとんど見せなかった。
が、原発占拠を試みようとした急進派らの存在。
その急進派に属する医師である古賀医師の存在。
オウム真理教との一致点を思い浮かべずにはいられない。

物語が師匠と案内人が、宗教活動を再開する時点で、オウム真理教の存在が姿を現した。
師匠と案内人が行う宗教活動、宗教法人は、オウム真理教に似ている面もあるが以て非なるものという位置付けが物語の中の一般大衆の受け取り方であるようだ。

しかし、上巻のみでは、大江健三郎氏自身が、物語中の教団がどのような位置付けを行っているのかがわからない。
なので、オウム真理教事件を受けて、大江健三郎氏が何をどのようなことを読者に訴えようとしているのかを考えつつ、下巻に取りかかった。

物語としては、大変興味をそそられ、面白いです。






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