こんな純愛があったのか!?東野圭吾原作「容疑者Xの献身」

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最近の東野圭吾さんの著作には、少し不満でした。作品全体が小粒になっているというか。
しかし、この「容疑者Xの献身」は、面白く昨日の晩、一気に読みました。

理系人間らしく東野圭吾さんの作品は独自のロジックが、展開されています。
この作品でも、ロジックを操る数学者と物理学者が登場します。
一人は、自分が好意を寄せる女性が犯した殺人をかばおうとする側の数学者として、もう一人は、警察側の協力者として。
この二人のお互いの才能を認めながらの対決も面白いのですが、純粋な学問が好きな同士の学問的対決も面白いです。

 

容疑者Xの献身 (文春文庫)

東野 圭吾 文藝春秋 2008-08-05
売り上げランキング : 1735

容疑者Xの献身(ネットオフ)

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<ここから批評>

 

僕は、あえてこの二人が、本書の中で紹介されてるような“天才”という言葉は用いない。なぜなら、彼らを天才とは認めないからだ。
本書で彼らを天才と認めさせようと描写は、ほとんどなく、なんだかお互いに世界的難問に取り組んでいるらしいとしか一般読者に分からない。
唯一、彼らを天才かもと思わせるのは、お互いそれまで交流がなかったにもかかわらず、試験問題に、例えば関数の問題と見せかけて実は積分の問題だったという事をお互い、関知しないまま試験問題に用いてたということです。
この事は、石神(数学者であり、本書の主人公であり、容疑者の協力者)の仕掛けたトリックを同じ同窓である物理学者、湯川学が解くきっかけとなったのではあるが。
それは、僕に言わせれば“秀才”とは認められるが天才ではないだろう。

なぜなら、それは単にロジックの変換でしかない。

天才とは、難しい難問を解き明かすのではなく、勿論そういう人の中にも天才はいるだろう、それよりも大事なことは、その世界の常識をくつがえすような、そして、その結果、その世界を劇的に不可逆的に(歴史を逆戻りさせないような)変化させ、その世界のパラダイムを転回させるような人物の事をいうのではなかろうか?

例えば、日本の歴史でいえば織田信長であり、思想の世界ではフランス構造主義、引き続いて起こったポスト構造主義にかかわった人達であり、日本のロックの世界では、初めて日本語の歌詞をロックにのせて歌った“はっぴいえんど”の連中、映画の世界では、仏ヌーベルバーグにかかった連中のことであろう。
いわばオリジナリティの問題ではなかろうか?である。

 

<ここから本書の紹介>

 

物語は、数学教師をしながら最先端の数学的難問の研究をしている石神の隣に住む花岡靖子の元に、どうしようもない元夫富樫慎二が金を無心しに来たところから始まります。

石神は、靖子にひそかに好意を抱いており、彼女の勤める弁当屋べんてん亭に毎朝、昼食のために決まっておまかせ弁当を買いに通っています。
靖子に好意を抱いているらしい事は、べんてん亭に勤める他のスタッフも気付いています。

金の無心に来た富樫慎二を成り行き上、靖子とその娘の美里ともに絞殺してしまいます。
隣の異変に気付いた石神は、靖子に死体処理を申し出ます。
靖子は、美里が殺人に関係しているため、自首する訳にもいかず、しぶしぶ石神の申し出を承諾します。

石神は、数学者らしく冷静に状況を判断し、明晰な頭脳を使って細心の注意を払って靖子に警察の対応等を指示します。




殺人が明るみに出ると警察官草薙とその友人の物理学者湯川学が登場し、それぞれ独自に、この殺人事件を推理していきます。
湯川学と石神は同窓生で、またお互いの才能を認め合っています。この態度は、ラストまで変わりません。

 

<ここから感想>

 

東野圭吾さんの作品は、単なる辻褄合わせに終わるようなミステリーをお書きにならないのですが、この作品もラスト近くで二転三転します。
映画「オールド・ボーイ」ほどじゃなかったけど、それに似た軽い衝撃を受けました。
東野圭吾さんの作品には、人間的な感動を呼ぶような作品が少なくないのですが、この作品も例外ではありません。
ただ欲を言えば、もっと深い感動を呼ぶような作品を東野圭吾さんに書いて欲しいです。東野圭吾さんには、それができると思い、そろそろそういう時期に入っていると思われます。

本書のタイトル「容疑者Xの献身」の“容疑者X”は数学者石神の事を指し、“献身”とは、本書のラストで明らかになる好意を寄せている靖子への宗教者とも思わせる犠牲的態度である。
しかし、石神の取った行動は、“献身”と呼ぶには軽すぎる犠牲である。

僕は、石神の取った行動は、ロシアの名匠タルコフスキーの哲学的思索を伴う映画「サクリファイス(犠牲)」を思わせるような人生を掛けた行為であると思う。
サクリファイス
サクリファイス

 

<ここから再び批評>

 

この行動をとるきっかけとしては薄すぎると指摘しておられるブログの記事が散見されましたが (これは、石神に数学を取り組む態度を、もっと崇高な行為であると改めさせるきっかけでもある) 、僕はそうは思わない。
僕も、それなりに悩み多き青年期を過ごし、研究室で実験していた当時、研究者とは何か、自分は果たして研究者としての才能があるのかと悩んでいた一人であり、研究者になるということは、「俺はロックミュージシャンになる。」というくらい実際ギャンブルなリスクの多い選択である。
また、同時に学生時代は女性にもてなかった一人として、不幸な境遇にあった石神が靖子という女性に、まるで聖母マリアが現れたように感じるくらい、女性に“聖性”を見出すことは、それほど珍しいことではないと思う一人である。

であるがこそ、本書は非常に惜しいのである。
思い切って、本書を宮部みゆきの「模倣犯」のように二部構成にし、第一部は本書のまま、第二部に石神や湯川学らの学生時代からの人生を描き、彼らを天才と呼ばされるような描写や石神の女性観や女性遍歴を描き、何故に些細なきっかけで靖子にそこまで犠牲を払う石神の気持ちを読者に納得させるためにも、湯川学は大学教授であるからともかく、石神は数学教師でありながら、また、別に大学に戻ろうという意思がないにもかかわらず、何故に家での時間を純粋数学の研究にいそしんでいるのかを読者に説得させるような説明が必要であろうと思われ、純粋数学に取り組む姿勢が靖子に出会ったことで、“崇高なもの”に取って代わる、いわばパラダイムの転換が、どれほど重要なことであるかを読者に納得させる必要があると思われます。このことは、ただ面白いからという理由で新書等や幾つかの本を読んでる僕も知りたいところだ。

そうする事によって、本記事のタイトルでもある“こんな純愛あったのか”と読者に思わせることができるのではなかろうか?この言葉は軽いですが。

 

<ここから再び感想>

 

本書にも、石神が払う自己犠牲は、ある程度、説得力を持って受け止めている。
なぜなら、石神がべんてん亭に訪れるときに払う敏感に見せる注意に、それらしい描写があり、このことは湯川学が石神を事件の関係者と推測させるのに十分な態度である、石神は醜男なのかどうかを知る描写が何もかかわらず、それとなく彼が容貌にコンプレックスを持っている描写が存在するからである。
であるからこそ、ラストに感動するのである。

東野圭吾さんの他の作品にも見られるのであるが、本書もラスト近く一気に犯行にいたる動機等や真相の説明があるのではあるのだが、これは東野圭吾さんのひとつの特徴ではあるが、本書は二部構成とまでいかずとも、石神がラストにみせる行為にいたるまでの説明がもっと欲しいところだ。

そうすることによって、本書は文学的高みを得て、本年度ベスト1であるばかりか、エンターテイメント小説に不可逆的に変化を与え、エンターテイメントの世界に革命をもたらし、東野圭吾さんの天才性が現れるのではなかろうか?

確かに、ラストの展開までの伏線をちりばめた結果、意外な展開を見せるという緻密なストーリー構成には脱帽しますが。

いずれにせよ、ここ最近の東野圭吾さんの作品には少し幻滅してたけど、この作品は東野圭吾さん自身が“5年に一度書けるかどうかの作品”というだけのことはありました。

評価:★★★★☆

(追記)
読後すぐでは、ベスト1はふさわしくないと書きましたが、読了後しばらくは、ずっと本書の石神が取った行動に深く考えさせられました。
今では本書こそが今年のミステリーNo.1にふさわしいと考えています。

東野圭吾さんの記事はコチラ東野圭吾なら「白夜行」から | KI-ミステリー(Mystery)

直木賞受賞の「容疑者Xの献身」の人気シリーズ第1弾東野圭吾「探偵ガリレオ」 | KI-ミステリー(Mystery)

 

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  1. 『容疑者Xの献身』

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  2. 東野圭吾【容疑者Xの献身】

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  3. 「容疑者Xの献身」東野圭吾著、読んでみました。

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  4. 容疑者Xの献身

    東野作品は20作くらい読みましたけど、自分にはこれが最高傑作です。若干突っ込み所はありつつも見事な叙述トリック、そして石神の純粋すぎる愛と湯川の優しさを描いたストーリー、どちらも大満足でした。結末は賛否両論ですけど、自分はこれでよかったと思います。

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